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福井地方裁判所 昭和52年(行ウ)5号 判決

原告 永杉祐治 外七名

被告 福井県知事 外一名

主文

一  原告らの被告福井県知事に対する訴えを却下する。

二  原告らの被告神明シヨツピングセンター協同組合に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告福井県知事が、昭和五一年八月二四日付、同年一二月一五日付、同五二年三月四日付で、被告神明シヨツピングセンター協同組合に対してなした各貸付決定を取消す。

2  被告神明シヨツピングセンター協同組合は、福井県に対し、六億五九〇二万円及び内八〇七八万二〇〇〇円に対する昭和五一年八月三一日から、内三億九八九一万六〇〇〇円に対する同年一二月二五日から、内一億七九三二万二〇〇〇円に対する昭和五二年三月一一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第二、第三項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告福井県知事

(本案前の申立)

主文第一項、第三項と同旨。

(本案につき)

(一) 原告らの被告福井県知事に対する請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  被告神明シヨツピングセンター協同組合

主文第二項、第三項と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 被告神明シヨツピングセンター協同組合(以下被告組合という)は、小売商業店舗共同化事業計画に基づき、神明シヨツピングセンター「アゼリア」の建築、維持管理を目的とし、昭和四九年一二月二一日設立されたものである。

(二) 原告らは、右「アゼリア」の商圏たる鯖江市内において総合食品業等を営むものである。

2  知事の貸付行為

被告福井県知事は、右「アゼリア」建設のために補助金を交付することとし、中小企業高度化資金として合計六億五九〇二万円を三回に分けて被告組合に貸し付けた。各貸付決定の日と金員交付日及び金額は、左記のとおりである。

貸付決定日 交付日 金額

第一回 昭和五一年八月二四日 同月三〇日   八〇七八万二〇〇〇円

第二回 同年一二月一五日   同月二四日 三億九八九一万六〇〇〇円

第三回 同五二年三月四日   同月一〇日 一億七九三二万二〇〇〇円

3  右各貸付決定の違法性

(一) 右各貸付決定は、被告福井県知事が中小企業振興事業団法及び中小小売商業振興法等に準拠して制定した福井県中小企業高度化資金貸付規則(昭和四三年五月三一日福井県規則第三一号、以下県規則という)第三条、別表第一、番号(7)及び備考5、並びに第九条に基づいてなされたものであり、その法的性質は、県規則第一条、第三条、第七条、第九条、第一〇条、第一三条、第一四条、第一七条、第二一条、第二二条の各規定の存在及びその内容にかんがみると行政行為であるというべきである。

ところで、右貸付を受けた被告組合は中小企業等協同組合法に則り設立された事業協同組合であるが、その事業協同組合の組合員の資格要件は同法第八条第一項により同法第七条第一項に掲げる事業者と規定されているところ、右第七条第一項と県規則第二条第一項が準拠する中小企業振興事業団法第二条第二号の各規定内容を対比すると、用語の一部を除けば全く同一であることにかんがみ、前記「事業者」はまた県規則第二条第一号にいわゆる「中小企業者」すなわち中小企業振興事業団法第二条第二号に該当する「中小企業者」(資本の額又は出資の総額が一〇〇〇万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五〇人以下の会社及び個人であつて、小売業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むもの)に該ることをも要すべきものと解されるところ、被告組合の組合員たる事業者の中に右中小企業者に該当せず、従つて組合員たる資格を有しないところの訴外有限会社「エース」及び訴外株式会社「フクシン」が存在している。

(二) すなわち、

(1) 訴外有限会社「エース」(代表取締役木瀬禎造)(以下訴外(有)エースという)は前記貸付決定時点における資本金は一〇〇〇万円であり、一応形式的には前記中小企業者に該るものである。しかし、訴外(有)エースの実体につき洞察するのに、(イ)その昭和五〇年六月二八日時点における資本構成中、訴外株式会社ユース(代表取締役木瀬禎造、資本金五〇〇〇万円)(以下訴外(株)ユースという)が二九%、訴外(株)ユースの役員をしている訴外木瀬禎造・訴外木瀬すてなどの木瀬一族が二三%を占めており、次に昭和五一年一〇月二五日の時点では、訴外(株)ユースの役員及び社員が合計四八%を占め、右出資比率の変動についても、訴外(株)ユースの訴外(有)エースに対する支配力の影響が看取されること、(ロ)訴外(有)エースの取締役木瀬禎造は訴外(株)ユースの代表取締役であり、また訴外(有)エースの取締役木瀬矩道は訴外(株)ユースの監査役であつたというように、両会社の役員構成に共通性があること、(ハ)店舗・販売・商品・広告の表示を同一にしたことがある等両会社の経営に一体性があること、(ニ)訴外(有)エースは訴外(株)ユース及びその役員が中心となつて同社の豆腐製造部門として設立したものであり、その後昭和五〇年六月五日その目的に「各種食料品及び日用雑貨の販売」を付加する旨の定款変更をなし、訴外(株)ユースと同様食料品等小売業界に進出し、その結果両社は営業内容を同一にするようになつたこと、(ホ)訴外(有)エースが被告組合に加入した真の目的は、訴外(株)ユースが訴外株式会社「フクシン」とともに前記「アゼリア」において実質的に「核店舗」になるためであつたこと、以上の諸事実が認められ、このことから、訴外(有)エースは訴外(株)ユースと実質的に同一であるとみるべきである。従つて、訴外(有)エースは実体的に前記中小企業者に該らないというべきである。

以上要するに、訴外(有)エースの法人格は本来中小企業高度化資金の貸付対象である事業協同組合の組合員たる資格を有しない(株)ユースがもつぱら右資格を作出するためにこれを利用しているのであるから、右貸付について準拠すべき関係法令の適用につき訴外(有)エースの法人格を否認すべきものなのである。

(2) 次に訴外株式会社フクシン(代表取締役柳沢全之)(以下訴外(株)フクシンという)は、前記貸付決定時における資本金は一〇〇〇万円であり、一応形式的には前記中小企業者に該るけれども、その実体は訴外株式会社やなぎや衣料店(代表取締役柳沢全之、資本金二〇〇〇万円)(以下訴外(株)やなぎや衣料店という)ないし訴外協同組合福進チエーン(代表理事柳沢全之、出資総額三〇〇〇万円)(以下(協)福進チエーンという)と同一であり、従つて法人格否認の法理を適用することにより実体的に前記中小企業者に該らないというべきである。即ち(イ)訴外(株)やなぎや衣料店の役員である柳沢全之・山田徳雄・山田興城以上三名は訴外(株)フクシンの発行済株式四万株の四〇%を所有しており、訴外(協)福進チエーンの役員である柳沢全之・安崎政士・道端茂・笹原重雄以上四名の持株比率は八八%に達していること、(ロ)訴外(株)フクシンの代表取締役柳沢全之は訴外(株)やなぎや衣料店の代表取締役であり、かつ訴外(協)福進チエーンの代表理事でもあり、また訴外(株)フクシンの監査役山田徳雄は訴外(株)やなぎや衣料店の取締役であること、(ハ)訴外(株)フクシンと訴外(株)やなぎや衣料店の営業種目が全く同一であること、(ニ)訴外(株)フクシンは経営が順調であつたにもかかわらず前記第一回の貸付決定時の直前である昭和五一年四月、二〇〇〇万円から一〇〇〇万円に減資し、これにより形式的に被告組合への加入資格を作出することを図つていること、(ホ)訴外(株)フクシンが被告組合に加入した真の意図は、訴外(株)やなぎや衣料店ないし訴外(協)福進チエーンが訴外(株)ユースとともに前記「アゼリア」において実質的に「核店舗」になるためであつたことが明らかであり、以上の事実関係を総合勘案すると前記結論に帰着するのである。

(三) 従つて、本件貸付は、法律上組合員たる資格を有しない者を構成員としている事業協同組合への貸付となり、違法であるので取消すべきものである。

4  被告組合の不当利得

被告組合は、右違法な貸付決定によつて本来交付を受けることができない補助金六億五九〇二万円の交付を受けたものであるが、これは福井県の損失において、被告組合が不当に利得を受けたことになる。

5  監査請求の経緯

(一) 原告らは、昭和五二年八月二九日付で、地方自治法第二四二条第一項の規定に基づく監査請求を福井県監査委員に対してなした。右監査請求は、本件貸付が、その構成員中に前記のとおり組合員たる資格を欠くものが存在する被告組合に対してなされているという違法な瑕疵があることを理由としている。

(二) 原告らは福井県監査委員より同年一〇月二六日付で右監査請求は理由がない旨の通知を受けた。

6  よつて、原告らは被告福井県知事に対し、地方自治法第二四二条の二第一項第二号に基づき行政処分たる前記各貸付決定の取消しを、被告組合に対し同法同条同項第四号に基づき不当利得金六億五九〇二万円及び弁済期後である各貸付日の翌日以降(内八〇七八万二〇〇〇円に対する昭和五一年八月三一日以降、内三億九八九一万六〇〇〇円に対する同年一二月二五日以降、内一億七九三二万二〇〇〇円に対する昭和五二年三月一一日以降)支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの主張

1  被告福井県知事

(本案前の答弁についての主張)

被告福井県知事が被告組合に対してなした各貸付は、地方公共団体である福井県と私人である被告組合間において締結された私法上の消費貸借契約であつて、いわゆる行政処分たる行為でないから、そもそも住民訴訟の取消し請求の対象とはなりえない。従つて、原告らの被告福井県知事に対する本件訴えは不適法である。

2  請求原因に対する認否

(一) 被告福井県知事

(1) 請求原因1の事実は認める。

(2) 請求原因2のうち、補助金として交付したとの点を除き認める。

(3) 請求原因3の(一)のうち、被告組合が中小企業等協同組合法に則り設立された事業協同組合であること、被告組合に訴外(有)エース及び訴外(株)フクシンが組合員として加入していること、本件貸付決定は被告福井県知事が原告主張の関係法令に基づいてなしたものであることは認めるが、その余の主張は争う。同(二)及び同(三)の主張は争う。

(4) 請求原因5は認める。

(二) 被告組合

(1) 請求原因1の事実は認める。

(2) 請求原因2のうち、補助金として交付したとの点は否認し、その余の事実は認める。

(3) 請求原因3の(一)のうち、被告組合が中小企業等協同組合法に則り設立された事業協同組合であること、被告組合に訴外(有)エース及び訴外(株)フクシンが組合員として加入していること、本件貸付決定は被告福井県知事が原告主張の関係法令に基づいてなしたものであることは認めるが、その余の主張は争う。

(4) 請求原因3の(二)の記載の事実中、訴外(有)エースは、昭和四七年七月一四日資本金五〇〇万円で豆腐その他各種食料品の製造を目的として設立し、同五〇年六月五日右事業目的に各種食料品及び日用雑貨の販売を追加し、同年六月二八日資本金を一〇〇〇万円に変更するためそれぞれ定款変更をなした事実及び訴外(株)ユースが資本金五〇〇〇万円である事実は認めるが、その余の原告の主張は争う。すなわち同(イ)の資本構成の点は持分譲渡により昭和五一年一〇月二五日以降訴外(株)ユースの持株比率は零、訴外木瀬禎造ら同族関係者の持株比率は一九%になつており、同(ロ)の役員構成の点につき原告ら主張事実は認めるが、同五一年一〇月二五日木瀬矩道は訴外(有)エースの取締役を退任しており、同(ハ)の点については両会社に経営の一体性を有する事実は何等存在しないし、同(ニ)の点については、両会社はそれぞれ独自に営業をしており、同(ホ)の点については原告ら主張のような目的はなく、結局訴外(有)エースは訴外(株)ユースと実質的にも異なるものである。

(5) 請求原因3の(二)の(2)記載の訴外(株)フクシンの貸付決定時の資本金が一〇〇〇万円であること、同(イ)、(ロ)の各事実は認めるが、同(ハ)の事実を否認し、同(ニ)の事実中、減資をしたことは認めるが、減資をなすに至つた理由は、訴外(株)フクシンの株主である訴外安崎政士、同安崎慶長が右訴外会社から脱退し、資本の払戻をなす必要上、減資手続を行つたもので、被告組合への加入資格を形式的に作出するためになされたものではなく、同(ホ)の事実を否認する。

(6) 請求原因4のうち、被告組合が、被告福井県知事の貸付決定によつて貸付金合計六億五九〇二万円の交付を受けた事実は認めるが、その余の主張は争う。対等の立場に立つて地方公共団体たる福井県と私人たる被告組合との間に締結された消費貸借契約は、前記被告福井県知事が主張したとおり、公権力の行使である行政処分と解されず、従つて本件住民訴訟としての取消し請求の対象となりえないものであるから、被告組合が私法上有効な消費貸借契約に基づく借入金について、不当利得が発生する余地はない。

(7) 請求原因5の(一)のうち、監査請求がなされたこと(その理由の詳細は知らない)及び同(二)の事実は認める。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告らの被告福井県知事に対する請求について

1  請求原因1、同2のうち、被告福井県知事が被告組合の小売商業店舗共同化事業である神明シヨツピングセンター「アゼリア」の建設のために、中小企業高度化資金として合計六億五九〇二万円を三回に分けて被告組合に対し貸付けたこと、各貸付決定の日、交付日及び金額が原告主張のとおりであること、及び請求原因3の(一)のうち、右貸付決定は、被告福井県知事が中小企業振興事業団法及び中小小売商業振興法等に準拠して制定した前記県規則第三条、別表第一、番号(7)及び備考5、並びに第九条に基づいてなされたこと、被告組合が中小企業等協同組合法に則り昭和四九年一二月二一日設立された事業協同組合であり、その組合員としていずれも資本金が一〇〇〇万円である訴外(有)エース及び訴外(株)フクシンが加入していることは全当事者間に争いはない。

2  ところで、原告らは、右貸付金は補助金であり、本件各貸付決定は行政処分であると主張し、地方自治法第二四二条の二第一項第二号に基づきその取消しを求めているので、まず、右当事者間に争いのない事実及び関係法令に照らし、本件各貸付決定が行政処分たる性質を有するかどうかについて判断する。

(一)  まず、本件貸付は、いわゆる特定小売商業店舗共同化事業の設置資金の貸付として無利子を条件とするものではあるが(県規則第三条、別表第一、備考5による。従つて、同第五条の適用はないものである。)、貸付金たる元金は一二年以内に年賦の方法による元金均等の割賦償還をすべきことが県規則上定められているから(県規則第三条別表第一、番号(7)、第四条)、右貸付金が相当の反対給付を受けない給付金(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第二条第一項参照)即ち贈与たる性質を有するものとは到底認められないから、右貸付金をもつていわゆる補助金と解する余地はなく、従つて、この点に関する原告らの主張は独自の見解というべく、採用の限りでない。

(二)  次に、被告福井県知事が中小企業振興事業団法及び中小小売商業振興法並びに関係法令に準拠して制定した県規則別表第一番号(7)及び備考5に基づき特定小売商業店舗共同化事業資金を貸付ける場合、貸付けを受けようとする者の申請(同規則第八条)、これに対する被告福井県知事の貸付けの決定(同第九条)、貸付決定者との金銭消費貸借契約の締結(同第一二条)、貸付金の交付(同条)という一連の手続を経ることになるところ、右貸付けを受けようとする申請者に福井県中小企業高度化資金の貸付けを受けるべき権利ないし法的利益があらかじめ一般的に賦与されているとは認められず、貸付けの申請を却下しても申請者の法律上の地位に対しなんらの変動を及ぼすものではないと解されること、右解釈をふまえると被告福井県知事のなす貸付決定は中小企業振興事業団法の目的(同法第一条)に適合するように金銭消費貸借契約の締結に至るまでの貸付対象者の資格審査、選定行為にほかならないと解するのが相当である。そうすると、本件貸付の適否の決定通知は、地方公共団体たる福井県が私人たる被告組合に対してなす私法上の行為であつて、申請者の申請は消費貸借契約の申込みに、被告福井県知事の貸付の適否の決定通知はこれに対する承諾・拒絶の意思表示にそれぞれ該当するというべきものであり、およそ行政権の優越的地位において被告福井県知事が公権力の発動として行ういわゆる行政処分ではないと解するのが相当である。そして、貸付趣旨の限定(同規則第一条)、貸付け対象事業、利率、償還期間及び貸付金額の定め(同第三条)、事業計画の診断及び指導(同第七条)、契約取消変更事由、違約金の定め及び担保の提供並びに償還準備金の積立(同第一〇条、第一七条、第一三条、第一四条)、貸付対象施設の設置等の計画変更等に際し、県知事の承認を必要とし、県知事が借主の事業経営状況等について検査等を行いうること(同第二一条、第二二条)等が規定されていることも、本件貸付金の公益的目的からして規制を加えているにすぎず、右貸付決定の右説示の如き本来の法律上の性質に影響を及ぼすものではないというべきである。

(三)  よつて、原告らの被告福井県知事に対する訴えは、地方自治法第二四二条の二第一項第二号に基づく取消し請求の対象を欠く不適法のものである。

二  原告らの被告組合に対する請求について

原告らは、被告組合が取消さるべき違法な貸付決定により本来交付を受けることができない補助金六億五九〇二万円の交付を受けたものであり、福井県の損失において、被告組合が不当に利得を受けた旨主張する。

1  しかしながら、前記認定説示したところによれば、右貸付け行為は住民訴訟たる本件取消し請求の対象たりえないのであり、右取消しを前提とする原告らの請求は、その前提を欠き理由がない。

2  ちなみに、本件貸付については中小企業振興事業団法施行令第三条第一項第四号、同法施行規則第六条第一項第四号により被告組合の組合員の一〇〇分の七〇以上が小売商業を営む中小商業者であることを要するものであり、他面中小小売商業振興法第四条第二項第一号、同法施行令第二条第一項第二号により被告組合の組合員の五分の四以上が商業に属する事業を主たる事業として行うものであり、かつ組合員の一〇分の七以上が中小小売商業者であることを要するものではあるけれども、被告組合は中小企業団体の組織に関する法律第三条第一項第一号に該当する中小企業団体であり、中小企業振興事業団法第二条第四号に直接該当する中小企業者であることが規定の文言上明らかであり、従つて県規則第三条別表第一、番号(7)に定める貸付対象者に該当するから、右中小企業者である事業協同組合に対する本件貸付はその組合員の一部に仮に中小企業振興事業団法第二条第二号あるいは中小企業等協同組合法第七条第一項イロ所定の要件を充足しないものが存在し、貸付にあたりその事実が看過されたとしても、そのこと自体で本件貸付が無効となるいわれはないので不当利得を理由に借主たる被告組合から貸付金の返還を求めることはその根拠を欠くものというべきである。

三  以上の次第で、原告らの被告福井県知事に対する訴えは不適法であるからこれを却下し、被告組合に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村幸男 朴木俊彦 堀毅彦)

参考

福井県中小企業

高度化資金貸付規則(抄)

昭和四十三年五月三十一日

福井県規則第三十一号

改正

昭和四十六年五月二十一日 規則第二十九号

昭和四十七年十月二十四日 規則第六十九号

昭和四十九年三月 十九日 規則第 九 号

(趣旨)

第一条 この規則は、中小企業構造の高度化に必要な資金の貸付けについて必要な事項を定めるものとする。

(用語の意義)

第二条 この規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 中小企業者 中小企業振興事業団法(昭和四十二年法律第五十六号。以下「法」という。)第二条に規定する中小企業者をいう。

二 特定中小企業者 中小企業振興事業団法施行令(昭和四十二年政令第二百五十四号。以下「施行令」という。)第三条者をいう。

(貸付けの対象等)

第三条 資金の貸付対象事業、貸付対象者、貸付対象施設(貸付対象資金)、利率、償還期間、すえ置き期間および貸付金の額は、別表第一のとおりとする。

(貸付金の償還方法)

第四条 貸付金の償還方法は、年賦の方法による元金均等の割賦償還とする。

(貸付金利の納入)

第五条 貸付金の利子は、後払いとし、元金償還の約定日に納入するものとする。ただし、すえ置き期間中においては、当該期間中の利子を元金の償還方法に準じて毎年納入するものとする。

(診断および指導)

第七条 知事は前条第一項の事業計画書の提出があつたときは、当該事業計画書について、計画の診断を行ない、必要な指導勧告等をするものとする。

(貸付けの申請)

第八条 資金の貸付けを受けようとする者は、申請書に担保物件提供約定書、連帯保証確認書および別表第二に定める書類を添えて、知事に提出しなければならない。

(貸付けの決定)

第九条 知事は、前条の申請書等を受理したときは、審査および必要に応じて行なう現地調査等により、貸付の適否を決定し、その旨を申請者に通知するものとする。

(貸付けの決定の取消し)

第十条 知事は、前条の貸付決定を受けた者(以下「貸付決定者」という。)が次の各号の一に該当するときは、貸付けの決定の全部もしくは一部を取消し、または変更することがある。

一 虚偽の申請または不正の手段により、貸付けの決定を受けたとき。

二 破産その他貸付けに重大な支障が生じたとき。

三 貸付対象施設の全部もしくは一部の設置等を中止し、または取りやめたとき。

四 貸付対象施設の設置等に必要な経費の全部または一部を支払う必要がなくなつたとき。

五 貸付けの決定の内容またはこれに付した条件に違反したとき。

(貸付金の交付)

第十二条 知事は、前条の貸付金請求書を受理したときは、次の各号に掲げる事項を実施調査および契約書その他書類により確認した後、貸付決定者と金銭消費貸借契約を締結し、貸付金を交付するものとする。

一 貸付対象施設の設置、取得または造成(以下「設置等」という。)が貸付決定を受けた日の属する県の会計年度内に完了するものであること。ただし、知事が特にやむを得ない事情があると認めたものについては、この限りでない。

二 貸付対象施設の設置等に要する経費のうち、貸付金相当額を除く額以上の金額が支払われていること。ただし、知事が特にやむを得ない事情があると認めたものについては、この限りでない。

(保証人および担保)

第十三条 貸付決定者は、それぞれ次の各号に定める区分により知事が適当と認める連帯保証人を立てなければならない。

一 貸付決定者が組合(連合会を含む。以下本号において同じ。)であるときは、当該組合の理事および知事が必要であると認める場合における当該組合員(連合会にあつてはその所属員である組合の構成員。以下本号において同じ。)もしくは法人である組合員の代表者

二 貸付決定者が中小企業者であるときは、二人以上

2 貸付決定者は、知事が適当と認める担保を提供しなければならない。

(償還準備金)

第十四条 貸付金の貸付けを受けた者(以下「借主」という。)は、知事が別に定める方法により償還準備金を積み立てなければならない。

(違約金)

第十七条 知事は、借主が償還期限までに貸付金の償還、または利子の支払いをしないときは、その期限の到来した日の翌日から納入の日までの日数に応じ、その延滞した額につき年十、九五パーセントの割合で計算した違約金を徴収するものとする。

2 知事は、借主が第十五条第一号、第三号、第四号または第八号に該当することを理由として償還を命じた場合は、当該貸付金の貸付の日の翌日から納入の日までの日数に応じて貸付金の金額につき年十、九五パーセントの割合で計算した違約金を徴収するものとする。

3 前二項の規定にかかわらず、知事は、やむを得ない理由があると認められるときは、前二項に定める違約金の全部または一部を免除することがある。

(承認事項)

第二十一条 貸付決定者または借主は、次の各号の一に該当するときは、あらかじめ、知事の承認を受けなければならない。

一 貸付対象施設の設置等の計画を変更または廃止しようとするとき。

二 貸付対象施設の設置等が貸付決定を受けた県の会計年度内に完了しないと認められるとき。

三 貸付対象施設を譲渡し、貸与し、または交換しようとするとき。

四 貸付対象施設の改造、目的外使用または使用停止をしようとするとき。

五 貸付対象施設を他の債務の担保として提供しようとするとき。

(検査および調査等)

第二十二条 知事は、借主の事業の経営状況および貸付対象物件について、必要があると認めるときは、検査または調査を行ない、借主に対し必要な指示をすることがある。

別表第1

番号

貸付対象事業

貸付対象者

貸付対象施設(貸付対象資金)

利率(年利)

償還期間(すえ置き期間を含む。)

すえ置期間

貸付金の額

(7)

小売商業店舗共同化事業(施行令第3条第1項第4号に規定する事業をいう。以下同じ。)

小売商業店舗共同化事業を行なう事業協同組合、事業協同小組合もしくは協業組合または中小企業者たる会社

小売商業店舗共同化事業の用に供する土地、建物、構築物または設備

2.7パーセント以内

12年以内

2年以内

設置資金の100分の65以内

備考

5. この表の貸付対象事業の欄に規定する事業のうち、中小小売商業振興法(昭和48年法律第101号)第4条の規定による認定をうけた商店街近代化事業、小売商業店舗共同化事業および共同施設事業に対する貸付については、同表の利率(年利)および貸付金の額の欄の規定にかかわらず、利率(年利)にあつては無利子、貸付金の額にあつては設置資金の100分の80以内の条件とする。

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